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コーチン・3

高級ブティックの店員シャンは、なんとスニの兄だった。
私はシャンに尋ねた。
「彼女は、店にいないのですか」
「結婚式を終えたばかりだからな。忙しいんだよ」
「いつお店に戻ってくるのか、わかりませんか?」
「はっきりとしたことは、わからない」
「2~3週間後なら、彼女は店に戻ってきているかな」
これは私の旅行計画でコーチンから出て南インドを一通り廻ったあと、もう一度コーチンに戻ってくる、という計算があったからだ。
「その位の時期なら、多分戻ってきている」

スニは早くお土産を受け取った方が喜んでくれるだろう。
他人ならともかく、彼女の兄なら信用しても大丈夫だろう。
私はチョコレートがぎっしり詰まった土産袋を店内レジ前にあったテーブルに置いた。
「じゃあ、これを彼女に会ったら渡してもらえませんか。結婚祝いとして持ってきたのです」

「日本のチョコレートだって?ちょっと見せてもらっていいかな」
シャンは土産袋からチョコを取り出した。
キットカット抹茶味。
アルフォート(ホワイト)。
チョコパイ。
ポッキー。
きのこの山。
テーブル上には日本製の菓子類が広げられた。
彼は目を輝かせ、手にとってパッケージを眺めていた。

一通り眺め終わったあとに、神妙な表情で彼は言った。
「わかった。彼女に渡しておく。ところで・・・」
「ん?」
「この中のチョコで、君が一番美味しいと思うのはどれだ?」
何故そんな質問をするのか。
そのとき、私はたまたまアルフォートが目に入ったので、適当な気分で「これかな」と指差した。
「それ、俺が食べてもいいかな」
「えーーーっ!」

彼には頼み事をした借りがあるので、一つくらいは要求を受け入れよう、と思った。
「OK。じゃあ、君にあげる。残りは彼女に渡してくれよ」
私がそう言った瞬間に彼はチョコの封を切り、一粒取り出し、口の中に放り込んだ。
「うーん!!すげえ美味いな、日本のチョコ!君も食べるか」
もともと、それは私の買ったものではないか。
「いや、私はいいから。残りは彼女に渡しておいてくれよ。頼むよ」
とりあえず土産の件はシャンに預けて終了とし、私は宿に戻った。

スニに会えなかったのは残念だった。
帰りの飛行機の関係で再度コーチンに戻ってくる予定となっていたので、その時にコンタクトをとってみようと思った。

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