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ホームステイ・1

ホームステイ初日。

私はスリヤンガの自宅で昼食をごちそうになったあと、夕方になるまで雑談などしてのんびりさせてもらった。

「そろそろ行きましょう」

お茶を飲んでいたスリヤンガが立ち上がった。

私は彼の車に乗り、5分ほどでホームステイ宅に到着した。

古い2階建ての家屋の前に車が停まり、玄関から中年男性が出てきたので挨拶する。

 

ホストファミリーの主人、ラリットだ。

彼は私よりも年上だが、中肉中背で頭髪は白髪がなく若々しい印象を受けた。

現在外資系のホテルに勤務し、英語は堪能。

今回の滞在地・ヒッカドゥワは欧米人に人気のビーチリゾートなので、外国人向けの宿泊施設がたくさんある。

彼はスリヤンガの前職の先輩だった縁で、今回のホストファミリーを引き受けてくれたのだ。

仕事柄、外国人に慣れているということもある。

スリヤンガはラリットと軽く世間話をしたあと、「じゃあ頑張ってね。時々様子見に来るから」と言って帰って行った。

 

ラリットに家の中を案内してもらった。

1階が母屋。

玄関から入ってすぐに共用スペースがあり、家族はテレビをここで見る。

廊下はなく、次に居間兼食堂となっている。

居間にいた奥様のドゥシャンティに挨拶する。

この居間に子供部屋が3つと両親の寝室が隣接している。

興味深いのは、各部屋の仕切りにドアがなく、のれんが下がっているだけなのである。

一体プライバシーはどうなっているのか、と疑問を感じた。

 

居間から裏玄関を抜けて一度屋外に出ると、小さな中庭と二階に上がる階段があり、二階は客間となっている。

この客間が唯一この家でプライバシーが守られる空間である。

トイレ、浴室そしてベッドには蚊帳も用意されている。

 

私が荷物を二階に上げたあと中庭に下りてくると、短パンで上半身裸になったラリットが待っていた。

中庭は壁に囲まれているのだが、やたらと波音が大きいのが気になっていた。

「扉を開けてみなよ」

ラリットが笑っている。

 

「おおぉーーーーーーー凄い」

思わず叫んだ。

裏庭のドアを開けたら目の前が海と砂浜。

なんと、家から徒歩30秒でビーチだ。

 

「キレイだろ、海。一緒に泳ごう」

陽気なラリットである。

しかし私はインドでひいた風邪が治らず、鼻水が止まらない状況が続いていた。

だから正直気乗りはしない。

「でも私、海パン持って来てないのですが・・・」

私は遠まわしに断りを入れたつもりだったが、

「下着のまま入ればいいじゃないか。ここは観光客が来ない場所だ、ノープロブレム!」

ラリットは譲らない。

 

「いやいやいや・・・風邪をひいているから、またの機会にしたいのですが」

「ノープロブレム!問題ない。風邪なら私もひいているぞ!」

ラリットの顔をよく見たら、鼻水をたらしている。

「海水は健康にいいんだ、風邪も治るさ。さあ泳ごう」

 

「えーーーーーーーーーーーー!」

 

私はしぶしぶ服を脱ぎ、ラリットと一緒に海に入ることになった。

波は高くないし、水深もそれほどではなく、足が着くので安心だ。

水温は温く感じ、確かに彼の言うとおり気持ちがよかった。

結局10分ほど2人で海に入っていた。

海から上がった直後に大量の鼻水をかんだ。

 

夕食はドゥシャンティの横で邪魔にならないように気を遣いつつ、写真やメモをとったりしながら調理方法を観察した。

一番驚いたのは、まな板。

丸太を輪切りにスライスした素朴な板なのだが、断面がガタガタであった。

包丁も、あまり研いでいないようだ。

しかし、出来上がった料理は絶品なので、何も問題はないのである。

 

フィッシュカレー。

ココナッツロティ(薄焼きパン)

生のココナッツミルクや新鮮なスパイスを使っているので、シンプルな調理法であっても十分に美味しい。

家庭料理なので油は控えめであり、自分にはちょうどよかった。

 

目まぐるしい一日が終わり少し疲れてはいたが、陽気なラリット夫妻を見ていて

ホームステイ生活は、なんとかなりそうだと感じてきた。

そして不思議なことに、翌日から咳や鼻水の症状がピタリと出なくなった。

 

 

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