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スニ・1

2月22日

コーチンに戻って最初に行ったのは問屋街。

食器とスパイスの買い付けが目的である。

問屋街は初めてではないので、すぐに金物屋は見つかり食器のオーダーを行う。

その場で梱包してもらい、エルナクラム中央郵便局で発送の手配を行った。

チェンナイでたらい回しにされたのがウソのように、実にスムーズに手配が進行し、あっという間に発送業務が終了した。

 

翌日、約束通りスニと再会した。

彼女は私の安宿のロビーまで、わざわざ出向いてくれた。

「君が言っていた通り、お土産を直接あなたに渡します」

チョコレートがたくさん入ったビニール袋を彼女に手渡した。

「そうそう、直接ね」と言って彼女は笑う。

「日本人は約束を守るでしょう?」

ドヤ顔の私。

「日本人じゃなくて、あなたが、よ」

スニは我慢ができず、袋の中身を外に出して確認を始めた。

 

キットカット2種詰め合わせ ファミリーパック

明治チョコ3種詰め合わせ ファミリーパック

きのこの山&たけのこの里 ファミリーパック

コアラのマーチ ファミリーパック

ブルボン アルフォート(ホワイトチョコクッキー)

グリコ ポッキー

 

スニが希望していた通り、山盛りのチョコレートである。

そしてピンク色のボールペンをプレゼントした。

サイズは小さいが、シャープペンとボールペンが切り替わるペンだ。

 

「やった!やった!」

スニは大喜び。

その場でチョコの封を切り、食べ始めた。

マルコスやシャンも同じようなリアクションだったけれど、インド人は本当にせっかちだ。

スニは満面の笑みで「美味しいー」を連発。

今回は無事お土産を渡せてよかった、よかった。

「これからどうする?」と聞く私に、「海を見にいきましょう」と答えるスニ。

「海?」

 

宿から10分ほど歩き、海岸へ。

海岸沿いの遊歩道を二人で歩いていく。

「♪~」

チョコを食べながら上機嫌で歩くスニ。

インド人女性と一緒に並んで歩いている私。

まるでデートをしているような不思議な気分になってくる。

 

海が正面に見えるベンチに座って世間話をする。

「君の勤めていたブティックがなくなっていたよ」

と私が言った。

「そうね、あの店は値段が高かったから・・・コーチンとゴアの支店が閉鎖されたわ」

「そうなんだ。で、君は今働いているの?」

「ええ、今は医療事務の仕事をしているのよ」

「そうか、それはよかった」

 

私は空腹を感じていた。

「スニ。お昼ごはんは、ビリヤニを食べに行こう。確かムスリム街にお店あるよね?」

「わかったわ、行きましょう」

リキシャーに乗るが、なかなか走り出さない。

スニとドライバーが長々と話し込んでいる。

ようやく走りはじめたと思ったら、立派な店構えの店の前でリキシャーは止まった。

店の看板には、シルク、ジュエリーと大きく書いてあり、嫌な予感がしてきた。

ここはレストランではなく、高級土産物店だった。

 

高級土産物店!

私がここフォートコーチンで一番行きたくない所だ。

「スニ・・・なぜ?」なぜなんだー!

「まぁまぁ、とりあえず店に入りましょう」

彼女になだめられて店内へ。

 

スニは店主と現地語マラヤラムで談笑。

私にスタッフが近づいてきて、お土産の売り込みが始まった。

絨毯。

仏像。

やたらと細かい細工の置物。

スタッフは私が外国人なので値段の高いものばかり勧めてくる。

私の心は1ミリも動かない。

買う気がないものの、何度も売り込みを断っていくのはストレスが溜まる。

 

「もう、疲れたよ」

店員に聞こえない程度の小声でスニに苦情を言った。

「ドライバーの彼は、私たちが店に入っただけでコミッション(手数料)を土産店の店主からもらっているのよ。少し協力してあげて」

「うーーん・・・わかった。でも買わないからね」

スニは観光地コーチンで長く暮らしているので、リキシャードライバーが経済的に恵まれていないと知っている。

だから彼女は頼まれたら断れない。

 

買う気が全くない土産物店巡りに5軒付き合わされ、ビリヤニ屋にようやく着いたのは1時間半後のことであった。

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