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ホームステイ3日目。

7:00起床。

今回はラリットと一緒に海老を買いに魚市場へ行った。

 

肉や魚はスリランカでは非常に高価である。

日本で例えるなら、ずばり正月に食べるカニ。

特別なハレの日に食べる高級食材ということである。

 

参考までに物価の比較をしてみよう。

●ミネラルウォーター 1リットル1本 70スリランカルピー(約65日本円)

●コロンボの安宿の宿泊代 2500(2300)

●コロンボの庶民的な食堂で食べたカレー定食 500(460)

●缶ビール350ml 1缶260(240)

●カツオ 大1尾 650(600)

●野菜(玉ねぎ、じゃがいも)計1kg 95(87)

●鶏肉 1kg 350 (320)

●エビ 1kg 1000(920)

魚やエビが高価、ということが伝わっただろうか。

 

魚市場での支払いは、全て私の負担である。

ホームステイ先に余計な金銭的な負担をかけたくない、という思いがあったからだ。

もし私が海鮮料理を食べたいときは、その調達費用は私が負担し、調理をママが行うという取り決めであった。

スリランカに来て海鮮料理ばかり食べているのは理由がある。

私がリクエストしたからである。

 

私は自分でカレー屋を経営していて、同業の他店に海鮮料理のメニューが少ないことに気が付いていた。

北海道においてスリランカカレーを提供するカレー店は少数派であるし、海鮮料理をやる店も少ない。

鮮度管理など確かに海鮮料理はリスクがつきものだが、うまくやれば他店との差別化ができるのではないか。

また南インド・ケララ州の魚カレーを自分の店で提供したところ、予想外に評判がよかったのでスリランカのレシピも学びたい、と考えたのである。

 

ラリットと私が中庭でエビの皮むきをしていると、見知らぬ男が家の中に入ってきた。

男は中庭に生えている4メートルくらいの高さがあるココナッツの樹につかまり、猿のように素早いスピードで頂上まで登って行った。

男はココナッツの実を鉈(なた)で切り落としていく。

ドスン。ドスン。

鈍い音を立てココナッツの実が地面へ落下。

合計4個落ちてきた。

「彼は誰なんですか?」

ラリットに聞くと、専門の職人つまり、ココナッツ落としのプロだという。

世の中には色々な職業があるものだと感心する。

そのうちの1個を次女が割り、ガリガリと中の果肉を削り始めた。

スリランカのカレーつくりは、ココナッツ削りから始まるのである。

 

昼食は、

エビのデビル(赤唐辛子の辛い炒め物)

キュウリのサラダ

ダルカレー

ママはスリランカ特有の赤米を炊いてくれた。

 

昼食後に私はアイスクリームが急に食べたくなり、中心街へ行くことにした。

スーパーマーケットの店内で、家族みんなと食べようと思った私が特大のバニラアイスを買おうとすると、付き添いの次男イシャンが「こんなに大きいの買うの?」と驚いている。

家に帰ると子供たちがワッと群がり、猛烈な勢いでアイスを食べ始めた。

よく話を聞くと、この家には冷凍庫がない、というのが理由だった。

 

タイミングよく子供たち全員が家に集まってきている。

もし何か理由があるとすれば、外国からの客、つまり私なのだろう。

特に働いている長男サハン、次男イシャンは日本からお客様が来る、ということを知っていて予定を調整してくれたようなのである。

ラリットの不在時は、彼ら兄弟が私の細かい世話を見てくれた。

 

残念ながら、3人の姉妹とは、あまりコミュニケーションがなかった。

4女ギトゥミニ(4歳)とは少しだけ関りがあった。

ギトゥミニは裏庭にある鳥小屋に餌を運ぶのが仕事だった。

私も面白がって小鳥の餌やりを一緒になってやっていた。

天真爛漫のギトゥミニは、いつも全裸で部屋の中をウロウロしている。

いわゆる裸族である!

「服を着なさい、何度言ったらわかるんだ」と叱るラリット。

言いつけを守らず、おしりを叩かれて泣くギトゥミニ。

 

ラリットについて、私の文章を読んでくれている読者には、おちゃめなオジサンという印象を持たれているかもしれない。

そこは彼の個性のほんの一部分であり、6人の子供の将来について、いつも考えている穏やかで常識的な人間である。

ギトゥミニに対しても愛情ゆえの行動、と私は見ていた。

 

夕食は、

エビカレー

ダルカレー

ブロッコリーと南瓜のテルダーラ(炒め物)

赤米

2食連続でエビ料理が食卓に並んだ。

 

私の滞在期間中は、ほぼ連日で食卓に海鮮料理が出てくる。

毎日ご馳走が食卓に並び、子供たちは嬉しかっただろう。

盆と正月とクリスマスが同時にやって来た感覚なのか?と想像した。

 

いつも私は食事を終えると、速やかに離れの自室に戻ることにしていた。

客人である私が食べ終わらないと、子供たちが食事にありつけないからだ。

私が食事を始めると、子供たちは部屋に戻ってしまう。

「ママ、美味しかった。またあとで」

と言って、私はいったん自分の部屋に戻るのである。

ラリットやママに聞いたわけではない。

空気を読むのは日本人の得意技である。

 

ホームステイで不思議に感じたことがあった。

日本のように家族全員で揃って食事をする所をほとんど見たことがなかった。

子供たちは帰宅した順に食事をしていく。

ママはその都度、食事を用意している。

これは大変だ。

ママは家事に忙殺されて、一日中家にいる。

彼女には自由な時間があるのだろうか。

 

今日は面白い光景を目にした。

長男サハンが帰宅し、リビングの椅子に腰掛けた。

テーブルに食事が置かれている。

ママの横に座っているサハンが、いきなり口を大きく開けた。

なんとママが食事を手に取り、その手で直接サハンの口に入れている。

サハンは赤ん坊ではない、24歳の成人男性である。

なんともディープな親子関係である。

日本人の感覚とあまりにも違うので、私は少しショックを受けた。

見ているこちらが目のやり場に困る光景だ。

だが、2人とも幸せそうな表情をしているのが印象的だった。

 

 

就寝前に私はママに、いつも何時に寝ているのか、聞いてみた。

「そうねえ、就寝は12時くらいかな。起床は朝5時ね」

「毎日ですか?」

「毎日よ。」

当たり前じゃない、とママは不思議そうな顔をしていた。

ホームステイ・3

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