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ホームステイ・5

ホームステイ5日目の朝は小雨だった。

朝食を終えた後、ママが私に提案する。

「あなた、仏教徒よね。まだお寺にお参りに行ってないでしょう?近くにあるので行ってみたら」

 

次男イシャンと4女ギトゥミニと私の3人で、地元の人たちが参拝する寺に向かった。

もちろんギトゥミニは全裸ではなく、可愛らしいワンピースを着ている。

線路に沿って、時には線路の上を歩く。

私たちだけでなく、地元の人たちも同じように線路の上を歩いている。

踏み切りもない。

日本ではありえない光景。

のんきな感じが南国的でとてもいい。

15分くらいでお寺に着いた。

 

雨の中にもかかわらず、屋外の仏塔では真摯に手を合わせ祈っている参拝客を多く見かける。

私は自分が仏教徒と思っているが、信心の度合いが随分違う。

寺の中に入り、仏像を拝む。

相場をイシャンに聞いた後に、気持ち多めにお布施をした。

拝観を終えて、魂が浄化されたような気分になった。

 

昼時にスリヤンガが私の様子を見に、ラリット宅に現れた。

「どう?料理の勉強うまくいってますか」

笑いながら聞いてくる。

「ママの作る料理はとても美味しい。この人に習うことが出来て、私は幸運だった」

そう私が答えたのは、本心だったからである。

ママのおかげで、スリランカの伝統的な料理を色々な調理法で見ることが出来た。

できるだけ多くの料理を、遠い日本からやって来た私に見てもらおう。

彼女はかなり考えて、毎日の献立を用意していたのだと思う。

 

「ねえ、スリヤンガ。シンハラ語で今私が言ったことを、彼女に正確に伝えてもらえないかな?」

「わかった」

スリヤンガはママに話しかけた。

ママは私のほうを見ながら嬉しそうにうなずくのを見て、このホームステイは成功だったと感じた。

 

この日の昼食はスリヤンガの実家で、彼の母親の料理をいただく。

うなるほど美味しい。

特にアンブルティヤル(魚の煮付け)が絶品だった。

燻製のような香りと酸味、黒コショウの辛味が一体となっている。

初めて食べる味だったが、ライスと混ぜると抜群の相性で食べ始めたら止まらなくなる。

同じように見える家庭料理でも、各家庭で微妙に味付けが異なることを実感できた。

これを知れたのも大きな収穫だった。

この食事の機会も、スリヤンガが気を効かせてくれてセットしたのだろう。

 

 

ラリット宅に戻り、ホームステイ最後の晩。

夕食は私がチキンカレーを作り、ラリット一家に振る舞うことになっていた。

私が市場で鶏肉を調達して、ママに下処理を頼んだ。

ママはいつも通り、スリランカの味付けでカレーを作る。

そして私はママの横で、別のカレーを作り始める。

私には秘密兵器があった。

日本から持ち込んだカレー粉「ハウスこくまろ」である。

なぜ「こくまろ」なのか?

成田空港に行く前に寄ったコンビニでは、こくまろしか売っていなかったのだ!

「ママ、日本とスリランカのカレーの食べ比べをしましょう」

 

昔、私がTVで良く見ていた「ウルルン滞在記」

日本人タレントが海外で一週間ほどホストファミリーたちにお世話になり、異文化コミュニケーションを楽しむ、という当時の人気番組だ。

お世話になった日本人は滞在最終日の夜に何かお返しをする、という演出があった。

日本食を作って、ホストファミリーに食べてもらうパターンが多かったような気がする。

コレの真似を私は一回やってみたかった。

 

調理が終わり、お互いのカレーを味見した。

ママのチキンカレーは相変わらず美味しい。

「あれ?」

ママは珍しく、私のカレーを本格的に食べ始めた。

本来であれば、先に夫、次に子供たち、一番最後に食事をするのがママのはずなのだ。

私がママが食事をするところを一度も見たことがなかったので、「いつ食べているの?」と聞いたら彼女が教えてくれたのである。

 

この日本カレーは本当に美味しいと感じてくれたようである。

「子供たちが全部食べてしまうから、その前に少し食べておきたいのよね」

タイミングよく帰宅したラリットも実食に参加。

「めちゃくちゃ美味いな、コレ」と言っている。

2人とも手で日本のカレーを食べている光景は、見ていて不思議な気分だった。

 

「ねえ、この日本のカレー用のスパイスは、どこで手に入るのかしら?」

ママが興味深々に私に尋ねる。

「うーーーん。日本ではどこでも買えるのですが、スリランカでは・・・ちょっとわかりません」

「そう・・・」残念そうな表情のママ。

 

日本式カレーがスリランカの人たちに受け入れてもらえたようで嬉しかった。

だが、私は玉ねぎと鶏肉を炒めた後に、水を入れてカレールゥを放り込んだだけである。

これが料理と言えるのか?

ちょっと申し訳ない気分も・・・正直ある。

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