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パンジム

2月10日

パロレムのあと、私が次に向かったのは、マルガオ。

これといった大きな特徴がない、南ゴアの地方都市である。

再訪した理由は2つ。

美味しい郷土料理のレストランと、質のよい料理本を売っている本屋があるからだ。

 

ポークビンダルー(豚肉の煮込みカレー)

チキンシャクティ(チキンカレー)

フィッシュバルチャオ(魚カレー)

ベビンカ(ココナッツ風味のケーキ)

そしてキングフィッシャービール。

お気に入りのレストランで舌鼓を打つ。

 

ポークビンダルーとチキンシャクティは、自分の店でも提供していて結構人気がある。

本場と自分の作る料理はどこが違うのか?

探るように食べていく。

味は自分の料理と比べてかなり近く感じたが、酸味と辛さは圧倒的に本場が上だ。

やはり自分の料理は日本人好みに抑えている、と再確認。

原型を知っていて加えるアレンジなら、なにも問題はない。

 

そして、ゴア北部の州都パンジムへ移動。

今回はビーチに行かないで、郷土料理をパンジムでしっかり食べておこうと決めていた。

ところが、どこへ行っても宿が満室と断られる。

ちょうどパンジムは今、お祭りの期間で観光客が集中する時期だった。

なかなか宿が決まらずウロウロ周囲を歩いていると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「おおーーっ、ビンセントじゃないか」

 

 

フランスの若者と予期せぬ再開。

「ビンセント、パロレムには行ったのかい?」

「行きませんでした。ゴカルナから、まっすぐ来てしまいました」

「そうなんだね。実は宿が見つからなくて困っているんだ」

彼も宿探しに協力してくれた。

なんとか宿をみつけ荷物を降ろした後、二人一緒にお祭り会場へ向かった。

 

街は祝祭ムード一色で、どこを歩いても物凄い人だ。

屋台料理にシャクティ、カフレアル、ビンダルーといったゴアの代表的なカレーが並んでいて、チョリーソ(ソーセージ)もゴア名物だ。

片っ端から注文して、食べていく。

屋台料理をつまみながら、ビールをガバガバ飲む。

ビンセントもかなり酒を飲めることがわかった。

顔色が全然変わらない。

 

イベント会場では黒山の人だかりが出来ていた。

インド人バンドが、Kool&The Gangの「Get down On It」を熱演中だった。

観衆は熱狂して踊りまくっている。

私も自分の好きな音楽が生演奏で聴けてノリノリ。

インド人も欧米の音楽を楽しんでいると知り、がぜん親近感が湧いてくる。

彼らだって、いつもシタール音楽を聴いている訳ではないのだ。

 

「明日ムンバイ行きのバスに乗ります」

ビンセントの旅は残り1週間。

「そうか、元気でね」

お互い酔いが回り、喧噪の中で二人はそれぞれの宿へ戻っていった。

ところが・・・

 

 

 

「おっ!また会ったね」

翌日に朝食に行ったレストランで、またまたビンセントと再開。

これも何かの縁と思い、夕方にムンバイ行きのバスが来るまでの間、一日彼と行動をともにしてみようと思った。

 

特にあてもなく、二人でぶらぶら街歩きをする。

昼食は混んでいるレストランに入り、ターリーと呼ばれるカレー定食とビールをオーダーした。

 

ゴアのターリーは、いわゆる南インドのミールスと盛り合わせが似ているが、菜食にこだわらず、干しエビの入った野菜炒めや魚のフライが入っている。

昼間から、どこでも、誰でも、気軽にビールを飲みながら食事ができる。

インドで酒を飲める場所は欧米人が多く来る高級レストランがほとんどである。

だから私は開放的な雰囲気のゴアが大好きだ。

 

食事をしながら、ビンセントの話を色々聞いた。

一緒に過ごす時間が多いせいで信用されたのか、彼はかなり個人的な話を私にしてきた。

父親は建設会社の管理職で、そこそこ上の役職らしい。

ビンセントはカナダにも留学経験があり、そこで英語を習得したとのことだ。

カナダと日本。

留学を2回もしている。

彼の実家は裕福なのかもしれない。

 

彼に日本での学生生活の話を聞いてみたのだが、表情が曇っている。

「私は日本人学生との交流を積極的にしなくて、留学生仲間と頻繁に会っていました」

「そうなの?」

日本語よりも英語で話すほうが楽だったからなのかな、と私は思った。

「私の留学は失敗だったかもしれません・・・」

ポツリと言うビンセント。

 

夕方まで街歩きをした後にバスターミナルへ行った。

ベンチに座ってバスが来るのを待ち続けるが、定刻になっても到着しない。

ビンセントは貧乏ゆすりをずっとしている。

「チャイでも飲みなよ、ここはインドだ」

インド人が言うようなセリフを私が言った。

チャイを飲みながら、時間が過ぎるのを待つ。

 

1時間遅れでバスが到着。

今度こそ、本当にお別れの時間だ。

「日本に戻ったら、あなたのお店に遊びに行ってもいいですか?」

ハグをしながらビンセントが言った。

「もちろん。いつでも大歓迎だよ」

実際このようなやりとりをしても、彼と再会する機会はやってこないだろう。

私は経験上わかっていた。

「See you,good luck」

バスを見送りながら、私と時間を共有して彼が喜んでくれたのなら、その気持ちだけで十分だと思った。

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