SPICE CURRY & CAFE
SANSARA
スパイスカレー&カフェ サンサーラ
旅の始まり
子供の頃から、遠い知らない外国を旅してみたかった。
1998年4月某日
今なら出来るのではないか?
勤め先を辞めた私は、気づいてしまったのだ。
自分に自由な時間があることに。
昔の夢を実現するため、具体的な行動に移った。
旅行のガイドブックを購入。
旅費を稼ぐため、アルバイトの開始。
特に細かい日程は予定していなかったが、長くて3ヶ月くらい旅をできれば十分だろうと思っていた。
私はバックパッカーに憧れていた。
バックパッカーは、登山に使う40~50リットルほどの容量のリュックサックを背負い、気ままに世界を旅をしている個人旅行者だ。
私は海外旅行をするなら観光地巡りよりも、生活の匂いを感じる場所を歩いてみたかった。
できるだけ長い期間旅するため金を節約し、安宿に泊まり、大衆食堂で地元の庶民と一緒に食事をする。
このバックパッカーのスタイルが自分の旅にふさわしい、と思った。
旅費はいくら必要か?
また荷物をどのように用意すればよいのか?
実際に行動に移そうとすると、次々と疑問が湧いてくる。
私は片っ端から旅行ガイド本を読み漁ることにした。
本を読んでいて感じたのは、荷物に関してはパスポート以外は着替えや洗面道具など国内旅行とそう変わらない装備で十分、ということだった。
ただし海外の安宿で部屋に泊まると、備え付けのベッドだけで毛布がついていない場合がある、と書いてあるのが気になった。保険の意味で小さいダウンの寝袋を買った。
利用価値があるのかわからなかったが、地図帳をバックパックに詰めた。学生時代のころから、地図帳の中にある外国の地図を眺め、旅行気分を味わうことが好きだったのだ。
旅費は貯金とアルバイトで捻出した金を約50万円かき集め、米ドルの現金とトラベラーズチェックに換金した。
ところが旅の準備を進めているのにもかかわらず、肝心の旅行先が決まらなかった。
本当は南米に行きたかった。
海外を誰でも旅行できる時代が到来し、旅先の土産話を聞く機会が増えたが、南米に行ってきた人は周囲には誰もいなかった。
南米に関するガイドブックも極めて少数しか出版されておらず、こうした情報量の不足や、治安の悪さ、英語が全く通じない、という情報は、私の気分を否定的なものに変えた。
パソコン音痴の私はインターネットの活用を全く考えていなかった。当時は漫画喫茶が地元にまだなく、パソコン所有者でないとネット情報にアクセスできない環境だった。
初めての海外一人旅で南米はあまりにもハードルが高いと感じ、行く前の段階であきらめていた。
次に候補に挙がった旅行先はインドだ。
私も沢木耕太郎氏の名著、深夜特急の影響を強く受けており、聖なる河ガンジスを訪れてみたい、と思っていた。
インドに関するガイドブックを読んでいると、現地で騙されてひどい思いをした旅行者の情報が、これでもかというくらい載っている。
本当にインドに行って大丈夫なのか?
不安がどんどん大きくなっていく。
1998年12月某日
タイ人女性と結婚した叔父に相談してみた。
叔母(タイ人)の兄が首都バンコクの近郊に住んでいるので、少し世話になってみたらどうかと助言してくれ、叔父の言葉に甘えることになった。
「兄へ話を通しておくからね」
叔母は片言の日本語で言ってくれた。
飛行機のフライト時間がわかったら、叔父に再度連絡する段取りとなった。
最初の訪問国はタイと決まった。
ホームステイの形でタイに滞在し、タイでインドへの入国ビザを取得する計画を立てた。
この時点になってもインドに行こうか腹を決めれずグズグズ迷っていたので、日本にいるうちに取得できたインドビザを保留にしていた。
飛行機のチケットは、ビーマンバングラデシュ航空が飛び切り安かったので、すぐに購入を決め、フライトの時間を叔父に伝えた。
1999年1月15日
Narita Airport,Japan
出発の日を迎えた。
旅の準備を整えた私は成田空港に着き、出発までの時間を高揚した気分で過ごしていた。
ところが期待で満ちたはずの胸の高鳴りが、不安と疑念に変化していった。
いつまで待っても登場手続きの案内がないのだ。
運行掲示板を見ると、DELAYの文字が表示されていた。
何らかの運行トラブルでフライト時間が遅れているようだった。
本に書いてあった格安航空券のデメリットを理解した。
高い航空券の会社ほど定時で運行するのに比べ、格安便は後回しになっているようなのだ。
結局フライトは予定より8時間の遅れとわかり、叔父に連絡を入れた。
タイで出迎えに来る予定の叔母の兄に上手く情報が伝わっていればいいのだが、と祈るような気持ちで機上の人となった。
タイは観光立国ということもあり知人友人にも旅行した者が多く、事前の情報は多かった。
治安もよく旅行者の評判がよい国だ。
敬虔な仏教国であり、穏やかで陽気な国民性で「微笑みの国」と言われている。
タイは私に微笑んでくれるのだろうか?