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コーチン・2

2015年2月某日。
私はインドとスリランカへ行くことを決め、航空チケットやビザの手配を終えていた。
出発も間近に迫ったある日、facebook画面を開いていたら、スニからチャットが入った。
私がインドに行くことを告げたら、彼女は驚くに違いない。

私はメッセージを入れた。
「今月、インドに行くよ。またコーチンに行くので、あなたと会えると思う」
彼女から返答。
「それはいい知らせね。私、結婚することにしたのよ。私の結婚式に出席する?」
「えーっ!そうなの。おめでとう!!」
驚かせるつもりだった私が逆に驚いてしまった。
インド人の結婚式に参列。
なんという魅力的な誘いだろう。
想像しただけでワクワクする。

しかし結婚式の日取りは、私がインドに到着予定前となっていた。
格安航空券は購入手続きをしたあとの日時変更が難しい。
「スニ、結婚式の出席は難しい。もう航空券の日時変更は出来ないと思う」
「それは残念ね」
「せめて何かお祝いを持って行きたいが、何か欲しい物がないかな」
「うーん・・・何がいいかしら」
「じゃあ、お土産として君の大好きなチョコレートをたくさん持っていく、というのはどう?」
以前した会話の中で、彼女が甘いもの、特にチョコレートが大好きだというのを覚えていたのだ。
「あっ、それがいい!日本のチョコをたくさんもらえるのね。楽しみだわ」
「山盛りのチョコをインドに持っていくから、待っていてね」

会話のあと、私は近所にあるスーパーに出向き、大量の菓子を購入したのだった。



そして2015年2月17日。
2年半ぶりのインドである。
コーチン国際空港で入国手続きを終え、直行バスを使ってフォートコーチンに向かった。

今回の旅の目的は当然料理の勉強なのだが、友人にお土産を渡すというミッションも加わった。
旅先での新しい出会いは素晴らしいが、見知った友人たちと再会するのも、また楽しいものだ。
高揚した気分で1時間ほどバスに揺られ、終点のフォートコーチンに到着した。

街全体が醸し出すひなびた雰囲気は、以前と何も変わらない印象を受けた。
インドの街は常に人が密集して、やたらと騒がしい場所がほとんどだ。
しかし、フォートコーチンは少し違う。
ここにいると時間がゆっくり流れているように感じ、ストレスをあまり感じない。
あらためて自分は、この街が好きだと感じた。
街を歩くと欧米人、そして地元インド人の旅行者が大変多いことがわかる。
人気の観光地なのであるが、ほどよく田舎で騒がしくないという点が、多くの旅行者に
好まれているのだろう。


前回の旅で長期宿泊した安宿に直行した。
運良く空室があり、宿はあっさりと決まった。
荷物を部屋に置いて身軽になった私は、菓子の詰まった土産袋を持ち、スニの働いているブティックに向かった。
彼女は店にいないかもしれないが、お店の人に聞けば連絡くらいとれるだろう、と思っていた。

店内にはヒゲを蓄えた20代後半と思われる男性店員がいたが、やはり彼女はいないようだった。
店員に尋ねる。
「ここのスタッフ、スニに会いたいのですが」
店員は警戒心たっぷりの表情で私をじろじろ眺めた。
「なぜ彼女の名前を知っている?君は何者だ」
私は日本から来た旅行者で、2年半前に一度ここに来ており、そのとき彼女と知り合いになったと説明した。

「君はスニの友人なのか?」
私に確認する。
私は「そうだ」と強い口調で答えた。
店員の表情が柔和になった。
「俺はシャン。スニは俺の妹だ」

 

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