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ヒッカドゥワ

列車がヒッカドゥワ駅へ到着したのは午前9時30分。

定刻より少し遅れたようだ。

駅前でウロウロしていると、身奇麗な痩身の男性が近づいてきて、私の名前を確認のために呼ぶ。

旅行代理店の社長・スリヤンガが迎えに来てくれたのだ。

彼の車に乗り、道中世間話をする。

 

彼の話す日本語はペラペラ。

アクセントも正確で聞きやすく、外国人特有の怪しいイントネーションの日本語ではなかった。

奥様が日本人ということもあり、普段から家庭で日本語を話すようにしているのだそうだ。

彼は会話していると頭脳明晰だとすぐわかった。

 

ホームステイ先に行く前に、スリヤンガの自宅に寄った。

スリヤンガの奥様レイコさん、娘さん2人に挨拶した。

 

レイコさんは、想像した通りの聡明な女性だった。

メールでホームステイの相談を何度もしたのだが、彼女からの返信のメールを読んでいてスリランカ料理に対する並々ならない熱量を文面から感じていた。

彼女に実際に会ってみて今回のホームステイはきっとうまくいく、と確信が深まった。

この旅行代理店は一般旅行者の対応のほかに、テレビ局がロケに来た時のコーディネーターもしているそうだ。

スリヤンガ・レイコ夫妻は日本語、英語、シンハラ語(スリランカの公用語)に堪能である。

 

レイコさんの友人・カオリさんが遊びに来ていたので、紹介してもらった。

関西出身の陽気な女性。

カオリさんもスリランカの男性と結婚し、近所に住んでいるのだ。

日本にいたときはアーユルヴェーダの店を経営されていたという経歴の持ち主。

こちらでも近い将来に店を持ちたいとのことである。

 

「これ、よかったら使ってください」

日本のカレー粉(こくまろ)をレイコさんへ土産として渡した。

「ありがとうございます!子供たちが喜びます」

とても喜んでくれたようである。

 

ちょうど昼時だったので食事をつくるところを見学させてもらった。

本来はそのままホームステイ宅に出向く予定だったが、私がリクエストして変更してもらった。

私はホームステイ宅で言葉のコミュニケーションがどこまで深くできるか心配だった。

料理に関する質問を日本語でレイコさんに事前にしておこう、と考えたのだ。

 

調理が始まった。

スリランカ料理の調理過程は、どうなっているのか?

私が特に気になっていたのは、カレー以外のおかず(副菜)が、どのくらい種類があり、どのように作っているのか。

私はスリランカ料理の全体像を大まかでよいから、知りたかったのである。

 

私は興奮しながら、夢中になってカメラのシャッターを切っていく。

にんにく、生姜、青唐辛子、玉ねぎをみじん切りにして、ココナッツオイルで炒めていき、カレーリーフで香りを加えていく。

これが料理のベースとなり、メインのカレーと副菜の料理を手際よく同時並行で進めていく。

時間の節約のため、仕込みで使う共通の食材を同時に処理していくのだ。

 

1時間ほどで料理が完成。

フィッシュカレー

ダル(レンズ豆)カレー

茄子のモージュ(揚げ茄子のスパイス和え)

インゲン豆のマッルン(ココナッツ蒸し煮)

空心菜のテルダーラ(スパイス炒め)

パパダム(揚げた豆の煎餅)

ライス

 

全員でテーブルを囲み、本物のスリランカカレーを手食で頂く。

最初はそれぞれの料理を個別に味わったあと、カレー・副菜・ライスを手で混ぜ合わせながら食べていく。

味わいが複雑になり、加速度的に美味しくなっていく。

 

「美味しいです!」

初めて食べたスリランカの魚カレーはもちろんのこと、特筆すべきは茄子のモージュ。

カリカリに素揚げした茄子にスパイスを加え、トマトやレモンの酸味を加えていく。

モージュはカレーやライスと混ぜながら食べると、あまりの美味しさに手が止まらなくなる。

レイコさんが一番おすすめしていた料理だったのが、このモージュ。

納得の美味しさだった。

日本に戻ったら、絶対に自分の店でメニューに加えようと思った。

それにしても、スリランカの家庭料理は日本人の味覚に本当に合う。

 

食事が終わった後、紅茶を飲みながらスリヤンガと世間話。

「今まで日本人のカレー屋は、何人ここに来ましたか?」と私が質問した。

「君で3人目だね」と彼が答える。

「どんな方たちだったんですか?」

「2人ともインドカレーの料理人で、現在お店は大人気になっているらしいね」

そしてスリヤンガは私の顔を凝視し「あなたも頑張らないと!」と言った。

 

うひゃあぁ。

プレッシャーを感じる!

「ハイ。がんばります」と答えるのが精一杯。

お尻の穴が、キューッと締まるような気がした!!

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