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3月3日

 

ヒッカドゥワでの滞在中、私はカオリさんの部屋にちょくちょく顔を出し、世間話につきあってもらった。

日本語でたっぷり会話ができるのが心地よいし、カオリさんは関西出身ということもあって、サービス精神旺盛で話をして楽しいのだ。

 

彼女から、夫であるキンスリーの話を色々聞くことができた。

キンスリーは筋トレが趣味である。

彼は私と年齢が同じなのだが、細マッチョでスタイルがよく、非常に若々しく見える。

 

「ちょっと聞いてくれます?キンスリーが私を最初にデートに誘ったとき、なんて言ったか」

おかしくてたまらない表情をするカオリさん。

「なんて言ったんですか、彼は」

「僕と一緒に浜辺でトレーニングしないか、よ」

「マジですかw」

「あっはは。ウケるでしょう?」

「それで、一緒にやったんですか。トレーニング」

「うん、でも毎朝6時から始まるのよ」

「マジですかwww」

 

カオリさんの話によると、キンスリーは苦労人だ。

今でこそ大きなゲストハウスの経営者だが、若いころイタリアで出稼ぎした金をもとに部屋2つの小さなゲストハウスを始めた。

彼の人柄が信用され、欧米からの長期客が増加し、少しずつ増築して現在の大きなゲストハウスになった。

 

そしてキンスリーは日本人が好きらしい。

他のシンハラ人と比較すると、彼の顔は濃くない。

子供のころ、日本人みたいな顔と言われ、彼は嬉しかったそうだ。

カオリさんと結婚したあと日本で生活した経験があるが、和食が全く合わなかったらしく、

いつも自分でカレーを作って食べていたようである。

 

 

夕方に、カオリさんが私の部屋をノックする。

「キンスリーがマトンカレー作ったから、食べに来ないかって言ってるよ」

マトンカレーだと!?

「行きます行きます。絶対行きます」

スリランカ人が作るマトンカレーは、今まで一度も食べたことがない。

まさに千載一遇のチャンスだ。

 

初めて目にするマトンカレー。

羊肉はキンスリーが、わざわざゴールの町まで買いに行ったそうだ。

ゴールはムスリム(イスラム教徒)人口の多い町だから、羊肉の需要があるのだ。

 

お皿にライスが乗り、マトンカレー、豆カレー、サラダが盛りつけられている。

これが目をひんむくくらい美味かった。

マトンカレーは、カルダモンとブラックペッパーが強烈に自己主張している。

臭み消しのジンジャーも良い風味だ。

「美味いよ!キンスリー、美味い」

夢中になってガツガツ食べていく。

キンスリーも満足気な表情で嬉しそう。

 

「どんなスパイスを使っているの?」

キンスリーに作り方を根掘り葉掘り聞いた。

これは絶対に店に戻ってから、メニューに加えなけらばならない。

 

 

 

3月4日

 

時間があったので観光地のゴールへ行った。

欧米人、アジアからも観光客がたくさん来ていた。

観光の見どころは城塞跡だが、周辺も含め半日あれば十分。

私が次回ゴールへ来るときは、観光ではなく、ムスリム料理を勉強するために訪問することになるだろう。

 

ゴールから戻った私は、宿の近くにあるスーパーマーケットへ出かけた。

外食に飽きてきたので、久しぶりに自炊をしようと思ったのだ。

夕食は久し振りにパスタを調理した。

香辛料は塩胡椒のみのシンプルな味付けだが、非常に美味しく感じた。

冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを出して、グビグビ飲む。

 

カオリさんがマトンカレーを持って部屋に遊びに来た。

「キンスリーが友達に自慢してたよ。俺のカレーは日本の料理人に褒められたって」

「そうなんだ。ほんとに美味しかったからね」

 

「そういえば、キンスリーは仕事があるはずなのに、なんか私の所にずっといようとするんだよね」

カオリさんは不思議そうな顔をする。

「そりゃそうですよ、久しぶりにカオリさんがスリランカに戻ってきたのだから」

「そう?」

「絶対そうですって」

 

スリランカではアーユルヴェーダの施設を立ち上げ、オフシーズンには南インドでヨガの修行をしている。

人生を謳歌する自由人のカオリさん。

前回の旅ではスリヤンガ・レイコ夫妻にお世話になったが、今回はキンスリー・カオリ夫妻と深く関わることになった。

人の縁とは、本当に面白いと思う。

ヒッカドゥワ・2

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