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VIVA MEXICO

 

1999年8月13日

Mexico City,Mexico

 

「HIDALGO・・・ここがイダルゴ駅だな」

 地下鉄に乗った私は、バンコクで渡されたメモを眺めている。

 日本人宿に、なんとか辿り着いた。

 「疲れているようね、ゆっくり休んで」

 宿の女性従業員は早朝にも かかわらず、私を彼女の寝室で休むよう案内してくれた。

 長旅の疲れと安心感で、一瞬で眠りに落ちる。

 

 目を覚ました私は宿の旅行者達とほどなく打ち解け、彼らと一緒にメキシコシティの観光名所巡りを行う事になった。

 

 繁華街にあるガリバルディ広場は、メキシコ市民にとって憩いの場所だ。

 広場の周辺にはマリアッチ楽団が大勢で待機しており、金を払えば目の前でロマンチックな演奏をしてくれる。

 地元の恋人達が曲をリクエストして、マリアッチに囲まれていた。

 オープンテラスで旅行者達とテキーラの祝杯を挙げ、私達はマリアッチの演奏をバックに メキシコの夜を満喫した。

 

 

 次にルチャ・リブレと呼ばれるプロレスショーを見物した。

 善玉の覆面レスラーは空中殺法を駆使して、悪役レスラーを退治する。

 観客はやんやの大喝采だ。

 子供が贔屓のレスラーと同じ覆面を被り、拳を振り上げて応援している。

 会場の周囲が治安のあまり良くない場所だったが、プロレスの観客は いかにもメキシコの庶民という人達ばかりだ。

 私は彼らの喜怒哀楽といった、生の表情を身近で見ることができて大きな収穫だった。

 

 

 さらに近郊のティオティワカン遺跡まで足を伸ばした。

 ティオティワカンはアステカ文明が残した巨大建造物であり、中でも有名な太陽のピラミッドは、自分の足で頂上まで登ることができる。

 

「ん?」

 ピラミッドの頂上では、10人の男女が手を繋いで、輪になってグルグルと回っていた。

「彼らは一体何をしているのですか」

 周囲の人に聞いてみると、 一人の女性があきれ顔で答える。

「UFOを呼んでいるみたいよ」

 そういえばメキシコはUFOがよく出現すると聞いたことがあったが、本当にこんな人たちが いるとは・・・

 びっくり仰天である。

 

 

 メキシコの代名詞といえば、なんといっても闘牛だ。

 私は念願の闘牛観戦のため、闘牛場プラサ・デ・メヒコに出向く。

 闘牛は残酷な見せ物だと眉をひそめる人がいる。

 確かに残酷だとは思うが、そう分っていても面白い物は面白い。

 

 闘牛は始めから闘牛士が勝つ事に決まっている。

 じっくり前座の人間が何回にも分けて牛の体を刺し、ある程度牛が弱ってきたら トドメを刺す闘牛士の出番となる。

 血まみれになり興奮した牛は、死の瞬間まで猛った角を闘牛士に向け突き進んでいく。

 

 「オーレ!」「オーレ!」

 大合唱が闘牛場に鳴り響く。

 クライマックスに向け、観客のボルテージが上がっていく。

 

 やがて闘牛士の一刺しで牛は力尽き、場内は万雷の拍手。

 拍手が闘牛士に向けられているのか、死んだ牛に向けられていたのかは わからなかった。

 おそらく、両方だったのだろう。

 

 ところが、闘牛には思わぬ番狂わせがある。

 闘牛士が向かってくる牛を避けきれずに、角で突き上げられて空を舞ったあと、無残に地面に叩き落とされ醜態を晒している。

 きっと実力不足だったのだろう。

 ハプニングが発生して、どよめく場内。

 闘牛士が最後のトドメを刺しきれず、走って牛から逃げ回る光景もあった。

「あーっはははは!」

 見ていて、こんな瞬間が実に痛快だった。

 

 メキシコシティは見所が満載で、飽きることがない。

 街は毎日が祝祭日のような賑やかさだ。

 それに加えて人は情が厚いし、物価も安い。

 屋台のタコスは抜群のおいしさだ。

 インドのように露骨に人を騙す輩も見かけない。

 

「VIVA! MEXICO」

 バンコクで出会った旅行者の助言に従い、メキシコに来てよかった。

 ここで旅を終えても心残りはない、と思った。

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