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家庭料理

 

2012年10月26日

Fort Cochin, Kerala, India

 

 南インドでの滞在地は、最初からコーチンと決めていた。

 渡航前にガイドブックを読み、そこに料理教室があることを知っていたからだ。

 特に旧市街のフォート・コーチンは有名な観光地となっており、欧米人はもちろん、インド人観光客も多い。

 こうした観光客の要望に応え、多数の料理教室が存在するのだ。

 

 フォート・コーチンで、たまたま泊まることにした安宿。

 ここのマネージャーは、実に親切な青年だった。

 彼を信用していたので、料理を習いたいことを相談した。

「知り合いに料理を教えてくれる女性がいるので紹介するよ」

 翌日から彼女の自宅に訪問し、家庭的なインド料理を習うことになった。

 

 実際に習ってみると、驚きの連続であった。

 料理に使うスパイスの種類が非常に少ない。

 3~4種類のスパイスで味をまとめていく。

 調理時間も早く、具材を長時間煮込むことをほとんどしない。

 油も少量である。

 そして出来上がった料理は、非常に美味しいのである。

 

「こちらに来て色々な料理を食べたが、ここで作って食べたのが一番美味しい。ベストだ」

 一緒に料理を習っていた欧米人も同意見のようであった。

 

 空いた時間は、もっぱら食べ歩きに費やしていた。

 観光客向けの高級レストラン。

 庶民的な食堂。

 屋台。

 

 どこで食べても、それなりに美味しい。

 だが料理教室の味が素晴らしすぎて、印象に残らない。

 料理教室のカレーは油が控えめで食べたあと胃が軽く、優しい味だった。

 鮮烈にスパイスを感じるわけではないが、しみじみと滋味深いのである。

 自分自身年齢を重ね、味覚が若い頃と比べ変化しているのも原因であろう。

 インドの家庭料理は美味しい、と痛感するのだった。

 

 

 

 同じ宿で長期滞在していると、スタッフと人間関係が出来てくる。

 寝坊した私は宿の玄関でオーナーと会い、世間話をした。

「ちょうど遅めの朝食を食べるところなんだ。君も食べるかい」

 

 普段着の飾らない日常的な食事。

 なかなか観光客の立場では出会うことはできない。

 絶好の機会であった。

 

 奥様がトレーに料理を載せ、運んできた。

 サンバルという豆カレー、ドーサという米粉のクレープ、チャイ。

 日本の感覚でいえば、ライス、味噌汁、お茶といった感じだろうか。

 おそろしく質素な食事である。

 

 「!」

 ところが食べて驚く。

 レストランや食堂で供されるサンバルと比べ、格段に美味しい。

 料理教室同様に、優しく滋味溢れる味わいである。

 これなら毎日食べてもいいくらいだ。

 

 やはり、インドは家庭料理が美味しいのだ。

 日本人もインド人も美味しいと感じる感覚は、実は近いのではないか。

 つまり私が美味しいと思う感覚で、カレーを作っていいんだな。

 

 そんな確信がもてた。

 自分の店では家庭料理の味付けを中心としていこう、と決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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